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みが増強したため「こんなに痛いことを忘れていた。病気がよくなったと錯覚していた」と話したりしていた。また、「ここにいると落ち着く」や「夫は私の入院を喜んでいる」など夫への不満なども訴えていたが、家族の話には触れられたくない様子が見られていたため、気持ちのゆれに対して傾聴を続けていった。
その後、徐々にADLは低下していき胸水貯留による呼吸苦も出現し、胸水穿刺をしたが苦痛は軽減しなかった。「私、もうだめかしら、死んじゃうわ」と、死を意識した言葉も聞かれるようになり傾聴を続けていたが、15日の朝、突然、「ここには死ぬつもりで来た」「何となく自分をだましているようで信じられなくなった」「家に帰りたい」と、朝から薬も拒否し家族が来るのをじっと待っていた。姉の帰国を待ち夕方家族が来院され、家族とも相談し、受け入れも十分であったため、その日の夕方退院となった。
在宅では痛みなどほとんどないようであったが、予防的にアンペックを使用した。本人も「家族のそばで幸せです」と話していた。家族とも何度か電話での相談および指導を行っていった。次第に傾眠が強くなり、最後はコーヒーで乾杯しながら「もう私は眠って起きないからね、本当にありがとう」という言葉を残し永眠された。
学んだこと
以上のことより、私たちは次のことを学んだ。
1.死を目前にして、患者の気持ちの揺れは大きく、表面的な訴え以上にその思いは深いといえる。また、病状悪化時にはとくに不安定になりやすい。
2.医療者は、患者や家族の一つ一つの言葉や気持ちの変化を真摯に受け止め、「今、ここ」を生きる患者の思いに目を向け、柔軟に援助していくことが大切である。
3.しかし、患者の気持ちの変動に医療者は時に戸惑いや抵抗感を持ち、患者との関わりに悩むことがある。このような場合、医療者もまた自己に目を向け、患者との関わりにより生まれる感情に気づき、悩み、それを受け入れながら患者と出会う時、患者と医療者が「人」としての関係の中で、医療者が患者の最後の時間に真に寄り添うことができると思われる。

 

 

 

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